『遠野物語』についてその3 「水野さん」

本日は一日ずんと重い日。毎年そうですけども。
そうでなくても台本が切れなくてうなされています。ああああ

『遠野物語』について。その3を書きましょう。書いたらどうにかなるかもしれない。書いたら!なにか!どうにか!なるかも!しれない!!

一応、なんとなく『遠野物語』についてといいながら、『遠野物語』に関わっている人をピックアップして書いております。
今日はどちらかというとマイナーな方をご紹介しながらいきましょう。

しかし、この人がいなけりゃ遠野物語は生まれませんでしたのよ。

小説家・水野葉舟さんという方。以下Wikipediaより↓

水野 葉舟(みずの ようしゅう、1883年4月9日 –
1947年2月2日)は日本の詩人、歌人、小説家、心霊現象研究者。東京生まれ、本名は盈太郎(みちたろう)。
1900年新詩社に入り高村光太郎と親交を結び、その最初の著である詩文集「あららぎ」(1906年)を光太郎に献呈した。窪田空穂との共著歌集『明暗』もあり、柳田國男の『遠野物語』の成立に関わった。大正13年(1924年)千葉県印旛郡に移転し半農生活に入った。書簡文範、日記文範の著作が多い。

ですって。

遠野物語の関係からいうと、この人が佐々木さんと出会ってなけりゃ、佐々木さんは柳田さんとも出会わなかった。

佐々木さんはその2でいろいろご説明しましたが、遠野物語の話者の方。彼が岩手から上京して住んでいた下宿先に、ちょうどこの水野さんも住んでいたことから二人は仲良くなりました。
あと科は違うが早稲田大学の先輩後輩でもあります。この二人。

この水野さんが、佐々木さんを柳田さんに紹介したことで、『遠野物語』は生まれます。

一応小説家としてご紹介しましたが、最初は詩や歌の創作が多く、そのあと自然文学主義の影響で散文的な作品群が結構あります。
ええと、でもたぶんお名前だけ聞いてもピンと来る方は少ないと思います…。私も、遠野物語を調べ始めてこの方のお名前を初めて知りました。恥ずかしながら。
こういう人が出てきた場合、同年代で有名な方の時系列を追うと芋づる式に情報が出てくる場合がございます。
たとえば、(水野さんと同時期にご活躍された方は大勢いらっしゃるのですが、)一番有名なのは芥川龍之介でしょうか。
それでは、私の芥川蔵書(そんなにもってない)の一つよりこちらをぜひごらんくださいませ。

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こちらは阿蘭陀書房版の『羅生門』の復刻版です。
巻末には当時の広告まで再現されていて、よくよく見るとその中に水野さんの本の広告などがちゃんと載っていたりして。

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なるほど。このころ、水野さんは作家さんとしてすでにご活躍なさっていたようです。

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ちなみに、阿蘭陀書房版の『羅生門』が出版されたのが大正6年(1917)。
遠野物語はそれより前の1910年に出版されております。
そして、水野さんと佐々木さんが出会ったのが、1905年ごろ。このころの水野さんは新進気鋭の若手作家という感じだったようです。
実は、岩手から小説家を目指して上京してきた佐々木さんが、同じ下宿先にあの水野葉舟がいると聞いて、訪ねたのがこの二人の出会いのきっかけだったようです。
相手は活躍中のプロの作家。無名の佐々木さんがそこへたずねるのは、まあ、時代もあるけれど。なかなか勇気がいることだと思います。
しかも佐々木さんは上京したてで岩手訛りがひどく、しかもこの人昔から吃音症でありました。それでも、小説家になりたくて、何か少しでもその手掛かりがほしくて、会いに行ったようです。

水野さんは水野さんで、最初はなんでこの人来たんだろう?という感じだったそうです。あとやはり話が聞き取れなかったらしい。

なんでこんなに詳しいのかというと、水野さん自身がその話を作品にして書いているからです。
二人の出会いはぜひ。青空文庫の水野葉舟『北国の人』でお楽しみください!!! (佐々木さんをモデルとしたであろう荻原という人との出会いと不思議な出来事のお話です。)

でも、佐々木さんががんばって会いに行ったおかげで、二人はとても仲良くなります。一時期は水野さんの家に佐々木さんを住まわせていたほど。
そんなにも仲良くなったきっかけは、やはり、佐々木さんの持っていた遠野の昔ばなしだったようです。水野さんはこれにとても心惹かれたらしい。
実は水野さんも佐々木さんから聞いた話を作品にしたりしています。もっというとそれは柳田さんより先に作品として発表しています。
もっともっというと、柳田さんより先に遠野に行って、遠野のことを(佐々木さんのことを)書いていたりしたのはこの人なんですよ!!柳田さんより先に!!
(詳しくは青空文庫で『遠野へ』という作品が読めますのでそちらでどうぞ!『遠野へ』以外も遠野のこと書いた文章いっぱいあるけど!)

柳田さんは水野さんが先に遠野に行ったことをうらやましがっていたとか。なんとか。(ご自身は別のところへ研究旅行の予定がすでに入っており、水野さんの遠野行きと予定が合わず。だったようで、)柳田さんがわりとかなり強行で遠野へ行ったことも、出版のあの速さも、なんとなく、水野さんがいたことがちょっとあったりしたのかしらとか思ったり。(真相は知りません。)

でも、柳田さん・水野さんにとって、佐々木さんの語った遠野はそれだけアツい場所だったようです。

もちろん、水野さんは作家の目線で佐々木さんや遠野の昔ばなしをとらえていたようです。当時流行していた自然文学主義的なところで書かれているのが特徴的であります。
(佐々木さんが自分のことを書かれすぎて水野さんにキレたエピソードなんかもあります。水野さんが超謝ってゆるしてもらったとか。)
水野さん自身も、柳田さんは自分とは違う目線で遠野の話を見ていることを評価しており、『遠野物語』ができたとき、佐々木さんを紹介した縁でこの本ができたことを、とても嬉しく思ったと残しております。

私の個人的な感想を言えば、まず、よく佐々木さんと仲良くなれたな!と最初思いました。でも、水野さんの作品を読んだり、調べたりしたら、なんとなくわかりました。この人も、わりと変な人だと。
ウィキさん情報でひとつ気になるカテゴライズがございませんでしたか?
「心霊現象研究者」というカテゴライズ。
水野さんは実は幼いころから大の怪談好きでありました。作品でも怪談を多く残しておりましたが、晩年は研究にも力を入れていたようです。
心霊現象の研究が変だとは言いません。私も心惹かれるところがあります。
でも世間一般からはひとくくりにされて怪しい目で見られることの多い分野かと思われます・・・。
あと、一説によると、水野さんがその研究に心を向けたきっかけが、最初の奥様が亡くなったことに所以しているらしいと聞きました。

そこを知りたい。と強く思う気持ちって、やっぱりちょっと変だと思われがちかもしれない。けど、私も知りたいと思うところです。
人は死んだらどうなるんだろう?なんて、子どもも大人もみんな考えます。子どものころは死を考えるとわからな過ぎて過剰に怖かった気がする。今は逆にあまり考えないかもしれない。
けど、仏壇には毎日手を合わせて、いってきますやただいまや今日の出来事や明日のことを口に出さずに伝えようとします。わりと淡々と。

本当に、死んだらどうなるんだろう?

ちなみに、佐々木さんと宮沢賢治さんはよくそういうお話をしていたそうですよ。

それより何より私が水野さん変だなと思ったのは『遠野へ』のこちらの部分が印象的すぎたからです。遠野へ向かう馬車で疲れた語り手(水野さん)がもんもん考えているシーン↓

私はもう疲れた。からだの自由は利かず、目に見える自然に飽いた。ねむりたいと思ったけれど、眠ることもできない。ただじっとからだを据えたまま、心でいろいろのことを思い描く。私は四年ぶりで逢った従妹の顔を思い出していた。子供の時分にはほとんど一緒に育った女だったが、四年逢わずにいたうちに結婚して、子供を生んでいた。その従妹の家に泊っていたあいだに私はしばしば、従妹が自分にはどうしても解することができない女になったと思った。……その従妹の顔がふと胸に浮かぶ。
 着いたはじめには、二人で向い合っていると、何か話さずにはいられなかったが、ふっと二人とも言葉が切れて、黙って顔を見合った。その時に女の顔には妙に底にものの澱よどんでいるような表情が見えた。しかも強味のある表情だった。この娘の時には見たことのなかった表情を見ると、私の心は波立った。その女が心の底を開いてものを言わぬのが、不思議に思えてならなかった。
 その黙って、目を動かさずにいる女の顔が胸に浮かんだ。私の目には、ぼっと白っぽい色をした冬枯れの林が映っている。耳にはしだいに深くなった渓の底からくる水の音が聞こえている。
「スフィンクス!」
 私には、時によると自分のこの肉体より、ほかのものは、すべてその存在していることが不思議でならなく思われる。
 と、私の目の前にぬっと馬が顔を出したので、はっとして今まで思っていたことが消えてしまった。

↓↓

私は突然の「スフィンクス!」に動揺が隠せなかったんだだよね。
水野さんも変な人だよやっぱり。(もちろん良い意味で。)

さあ、今日も長くなってしまったのでこれでとりあえずおしまい。 お口直しはないからスフィンクスの夢でもみて古代エジプトとかメソポタミアとか古代ギリシャに心奪われて今日の嫌なことなど忘れてください。

スフィンクス!!!

金谷

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